7.台湾の介護施設における特徴
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・人材獲得、育成へのアプローチ
・地域全体で行う、高齢者への前向きなサービス
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前回は、高齢者向け大規模入居施設「双連安養中心」と、台北市内にある台湾最大級の私営入居系介護施設「祥寶老人養護中心」におけるスタッフ・人材教育についてお伝えしました。
今回は、台湾のこれらの施設における特徴のまとめをおさらいし、日本の介護事業との違いについて考察していきます。
★人材獲得、育成へのアプローチ
まず台湾における人材獲得、育成へのアプローチについてですが、台湾でも少子高齢化の現象が顕著です。
今後の深刻な介護人材不足が予想され、日本と同様の課題を抱えています。
しかし、台湾の介護施設では、国内人材、海外人材獲得の2wayアプローチで人材不足の問題に対応していました。
まず国内の人材獲得では、介護・福祉に興味のある学生をボランティアとして施設に受け入れ、その期間を入職後のキャリアパスに適応するなどして新卒入社のインセンティブを設けていました。
こうした工夫は、実践的な就労体験によって介護に興味を持ちつつも「大変そう、給与が心配」といった不安を抱えた学生に一定の効果をもたらすでしょう。
しかし日本では、”OJT中心でとりあえず雇う”ことも多く、現場の状況と相反してしまいます。この背景には、低賃金、労働環境の特異性(重労働)、資格不用などの理由が挙げられます。
とは言っても、今後介護職の需要が高まり、自分の両親だけでなく高齢化社会について考えざるを得ない時代になります。まずは介護従業者の離職率をこれ以上上げないことが急務であり、社員の福利厚生やIT機器を利用した働き方など、政府による経済支援と専門性のある民間企業の協力が必要となるでしょう。
次に海外人材の獲得においてですが、ベトナムからの割合が高く、とりあえず雇い実践的な業務を通じて人材を育成していくという印象を受けました。
一方日本では座学での育成の比重が高く、就労までに時間を要すると考えると、国際的な人材獲得競争で日本の外国人労働者誘致、育成が課題となるでしょう。
★地域全体で行う、高齢者への前向きなサービス
台湾の施設では、高齢者の中でも自立者を対象としたサービスが提供されていました。
通常、介護施設と聞くと“要介護者のための場所”というイメージをもってしまいがちですが、台湾のある施設では健常高齢者のうちから転居し、介護予防・健康増進に取り組みながら、介護が必要な状態になっても施設内の移動で最期まで一貫してサービスを受けられる機会を提供しています。
ここでは高齢者向けの教育(絵画・手工芸・ダンス・体操・英語など)が受けられ、幼稚園の園児との交流もあり、入居者以外の地域住民も有料で利用できるシステムが整っています。
地域の高齢者が生涯学習の場として、月々700台湾元(2,520円程度)を支払ってでも来たいと思える場を提供できているところや、地域で必要なニーズに対して、きめ細やかなサービス展開を行っているところは、介護予防や健康志向に敏感な日本においても大いに需要があるのではないかと考えられます。
日本では、元気なうちから施設に移住する欧米型のCCRC「Continuing Care Retirement Community」は未だ流行っていないのが現状です。その背景には、日本人が土地に愛着があり、第二の人生を地元で過ごしたいと考えている人が多いことが挙げられます。
しかし、少子化や未婚化が進み、田舎離れが進むこれからの世代に関しては、今後変わってくるかもしれません。今後の動きに期待できるでしょう。
全体として、台湾での介護の質や労働環境、また人材育成や介護事業以外の事業展開など様々な視点で多くのことを知ることができ、非常に参考になった施設見学でした。
次回は、台湾における日本への送り出し機関の取り組み①についてご紹介します。