前回は介護業界の求人事情の深刻さと、離職がどの様な構造で発生してしまうのかについて見てきました。
今回は特に「法人・事業所の理念や運営のあり方に不満があった」に着目し、ミスマッチを減らすための考え方についてお伝えしていきます。
大前提として、入職時から法人側の思い描く「仕事観・介護観」を持った職員はまずいません。
皆、少なからず自分なりの「仕事観・介護観」を持ったうえで求人へ応募してきます。
その状況で入職し、いざ現場に入っていくことになれば、少なからず実際の介護現場と自分の考え方との間にギャップを感じ、それが大きくなれば大きくなるほど「法人・事業所の理念や運営のあり方に不満」を持つようになります。
「郷に入れば郷に従え。一度入職したのなら、見て覚えて自分が合わせるべきだ」という考え方もありますが、それでは限界があることも、新卒・中途の採用ともに皆様感じられているのではないでしょうか。
まず必要なのは、自法人の考えや取り組みについて、初期の段階でしっかりと、そして具体的に伝えることです。
「マインドセット」という言い方をよくさせていただきますが、まず考え方の出発点が明確になっていなければ、職員の現場での動きは自己解釈に頼ることになり、やがて本来の意図から離れた動きをし出してしまうようになります。
それを防ぐために重要なのは、理念や仕事観で考え方を伝えるだけでなく、どんな姿勢、どんな行動を望むのかまで具体的にかみ砕いて伝えることです。
例えば、介護保険の理念ともいえる「尊厳の維持」「被保険者の選択」「有する能力の維持向上に努める」という3つの項目が介護保険法では言及されています。
この3つの項目を実現するためには、それぞれの考え方と、現場での行動を結び付けて説明する必要があります。
まず、大切にしなければならない3つの原則の考え方を伝えましょう。
その上で「有する能力の維持向上」を「尊厳の維持」「被保険者の選択」を大切にしながら実現するために、まずは利用者への配慮やコミュニケーションを行いながら意欲を引き出し、身体機能の維持・改善の取り組みに結び付けることが必要であると伝えましょう。
「マインドセット」がしっかりできていない場合、(利用者に尽くしたいという思いが強いほど)利用者への配慮、コミュニケーションに偏って自立支援の考えがおろそかになる可能性がありますし、「能力の向上」に偏れば(利用者が元気になる姿を望むほど)「尊厳の維持」、本人の意思を軽視した自立支援をおこなう危険性があります。
基本となる考えの下、すべての行動に意味があるということを伝える必要があるのです。
そして、これは介護動作に限ったことではありません。
働き方やチームの中での動き方、コミュニケーション、自己研鑽、果ては基本的なルールまで、基本的な考え方があって、それに基づいて求められる行動であることを示す必要があります。
利用者のためになるサービスを提供するということは、満足いただけるサービスを提供しつつ、その対価を得て、適正な事業運営を継続的におこなうこと全体を指すので、経費削減や生産性の向上、利用者に提供できるサービスの限界を決めなければならないということも、これに含まれるでしょう。
ここまでかみ砕いて伝えることが出来た上で、「自分とは合わない」と考える方はミスマッチですし、共感を得る事ができれば実際の現場と理想の溝を埋めることができ得る人材であると考えることができます。
もちろん、その場合は、掲げている理念や行動規範と現場が合致していることが重要なのは言うまでもありません。
では、それらを実現するために、具体的にどの様な取り組みが必要か。次回詳しく紹介していきます。